仕事で少しクサクサしながら家に帰ると、鼻の頭に墨汁をつけた6歳の娘が迎えてくれた。
鼻についた墨汁は本当に綺麗な丸で、筆を使って慎重に書いたんじゃないかと思うほどだ。
本人はいつどこで付いたか分からないと言う。
おそらく習字をした際に、半紙に顔を近づけすぎたのだろう。夢中で文字をしたためる娘の姿を想像すると、自然と顔がほころんでくる。
父親はというと、昼間からパソコンに顔を近づけたり、遠ざけたりして、大人を悩ませる数字と睨めっこしたりしていた。
案外やっていることは変わらないものだな、と考えるととなぜか心が軽くなった。
習字教室に同行している妻によると、娘は奔放な性格そのままに、文字の出来栄えには拘りがないようだ。文字を絵として捉えている節がある。
一方の息子はといえば、真面目で几帳面、拘りも強いので、自分の書いた文字に不満があれば大きなバツ印を上書きして何度もやり直すらしい。いっぱしの書道家、もしくは文豪のようではないか。
娘と息子の性格は本当に正反対で面白い。
いつも中間ぐらいに落ち着けば良いのになぁ、と思う。それと同時に、自分もその地点を目指すべきなのだな、と気づかせてくれる。
鼻の頭の墨汁を拭こうともせずソファーを駆け回る娘。その横でポケモンのレベルアップに精を出す息子。夕ご飯の後片付けをしている妻の姿を眺めながらビールのプルタブを開けたとき、クサクサしていた気持ちはどこかに逃げていた。
イヤホンをシェアしながら
気分転換がしたくてラジオでも聴きながら散歩に出ようとすると、6歳の娘も一緒に行くと言ってくれた。
ラジオを聴くのはおあずけかな、と耳につけたイヤホンを外そうとすると、片方ずつシェアして一緒に聴きながらお散歩しよう、というお誘いを受ける。
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